国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん」
明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。
もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまでいかぬうちに闇に呑まれていた。
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雪国 / 川端康成
すがすがしい緑
Awakening 揺れる大地―われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活
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Aichi Triennale 2013
四季の中で夏だけが「終わる」よね。冬は終わるんじゃなくて「春が来る」だし春も「夏が来る」。秋は「深まって」連続的に冬に変化する
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大山顕(@sohsai)
すると石の下から斜はすに自分の方へ向いて青い茎くきが伸びて来た。見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来て留まった。と思うと、すらりと揺ゆらぐ茎くきの頂いただきに、心持首を傾かたぶけていた細長い一輪の蕾つぼみが、ふっくらと弁はなびらを開いた。真白な百合ゆりが鼻の先で骨に徹こたえるほど匂った。そこへ遥はるかの上から、ぽたりと露つゆが落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴したたる、白い花弁はなびらに接吻せっぷんした。自分が百合から顔を離す拍子ひょうしに思わず、遠い空を見たら、暁あかつきの星がたった一つ瞬またたいていた。
「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。
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『夢十夜』第一夜 / 夏目漱石
“When we give ourselves to the act of seeing, incoherent memories and thoughts of all kinds float to mind, accompanied by a swelling of emotion.”
―"Stream of consciousness" / Risaku Suzuki

















